外国人介護士の日本語レベルはどのくらい?「技能実習制度」、「EPA」、「留学制度」、それぞれの実情とは

外国人介護士の日本語レベルはどのくらい?「技能実習制度」、「EPA」、「留学制度」、それぞれの実情とは

外国人介護士

前回の記事でその背景や目的を解説した、外国人介護士受け入れの3つの枠組み、「技能実習制度」、「EPA(経済連携協定)」、「留学生受け入れ」。実際に受け入れるに際し、日本語のレベルについて懸念を抱く事業者の方が少なくありません。

それぞれ入国するにあたって試験が設けられており、合格するには一定の日本語能力が必要であることは知られていますが、具体的にどれぐらいのレベルに達しているのか、把握するのは難しいところです。

そこで今回は3つの枠組みで入国する外国人に対してどれぐらいの日本語レベルが求められているのか、それぞれ紹介していきます。

「技能実習制度」での入国で求められる日本語のレベルとは?

介護領域だけでなく、人材の受け入れ手法として大きく注目を集めている「技能実習制度」。この枠組みはもともと農業や漁業など、業務におけるコミュニケーションがそこまで重視されない業種が対象でした。そのため、高い言語レベルを期待されることもなく、労働現場で大きな問題が起こることはありませんでした。

しかし、介護分野はこれまでの認可業種とは異なり、人とのコミュニケーションが求められます。そのためコミュニケーションのベースとして日本語レベルが一定水準にあることが重視されるのです。さらに、本制度の創設理念でもある「日本の技能や技術、知識などを発展途上国へ移転することで発展途上国の人材育成に貢献」という観点からも、介護の現場でどのようなコミュニケーションが求められるのかを理解・習得する必要があり、そのためにも言語能力は欠かすことができません。

そこで政府は、介護領域において求められる言語レベルについて、入国時の最低要件を日本語能力試験「N4」合格相当としつつ、「N3」合格相当が望ましいと定めました。「N3」合格相当とは、「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる」状態であり、現場においてスムーズなコミュニケーションが担保されるレベルです。「N3」合格相当を入国時の要件ではなく、入国から1年以内の要件とすることで、現場の混乱を最小限に抑える配慮と、入国者数確保とのバランスをとったという事情が推察されます。

しかし、この「N3」レベルは設定されたハードルとしてはとても高く、技能実習生を送り出す国々からは強く見直しを求められています。このような状況を鑑み日本側は調整を進めており、「N3」合格相当という要件を、新たに設立されるテストへの合格に変更することも検討「N3」に合格しなくても在留が可能となる条件として「介護事業所のもとで必要な日本語を継続して学ぶこと、学ぶ意思を示していること」とする案が厚生労働省より提示されています。(改正案掲示のため、2019年2月1日修正)また、政府が進める「アジア健康構想推進会議」では介護ビジネスを取り巻く状況について多くの議論がなされています。そこでは、入国する介護分野の外国人をしっかりとサポートすべく動き出しており、今後もそのような動きが活発になることが予想されます。

「EPA(経済連携協定)」での入国で求められる日本語のレベルとは?

EPAで入国する外国人の場合、それぞれの国ごとに日本語教育のやり方が異なることに注意が必要です。その前提としてあるのは、EPAは各国とそれぞれ締結する協定であるためです。(前回記事参照)しかし、概ね学習期間1年を経過したタイミングで「N3」合格相当の言語レベルに達しているというのが実情のようです。

・EPAでインドネシア・フィリピンから入国する場合
まずそれぞれの国で6か月間の日本語教育を受け、最低でも「N5」以上に合格しないと日本へ送り出すことはありません。そして、日本に入国後6カ月間、介護だけでなく日本語教育も引き続きおこなわれ、入国者の9割は「N3」に合格したのちに勤務先に赴任しています。

・EPAでベトナムから入国する場合
ベトナムではまず国内で1年間日本語教育を受け、「N3」に合格しない限り日本へ送り出されません。すなわち、入国の時点ですでに日常レベルの日本語を習得しているということです。そして入国後も介護、日本語の研修を2か月半受けたのち、勤務先へ赴任しています。

EPAで入国する外国人は赴任前に「N3」に達することが求められるため、総じて言語レベルは高いと言えます。また日本で3年間の実務を経たあとに介護福祉士の国家試験に合格することが日本で働き続ける必須条件となるため、入国者の意欲も比較的高いものと思われます。ただ、EPAで入国した外国人の介護福祉士国家資格の合格率は徐々にアップしてはいるものの、未だ50%前後にとどまっており、3年後に50%の確率で帰国を余儀なくされるリスクを伴うのが実情と言えます。

参考資料:第30回介護福祉士国家試験結果(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12004000-Shakaiengokyoku-Shakai-Fukushikibanka/0000199589.pdf

「留学制度」での入国で求められる日本語のレベルとは?

最後に、「留学制度」で日本へ入国する外国人の日本語レベル要件ですが、明確な定義は定められていません。しかし、受け入れる日本語学校の出願資格などを見ると、最低限「N5」合格相当のレベルを有していることを求めるケースが多いようです。但し基本的には受け入れる学校ごとに求める水準はバラバラです。

介護現場での実務を考慮すると、一定のコミュニケーションを図るのに支障がない「N3」合格相当というのがひとつの目安と言えるかもしれませんが、中には日本人と一緒に学習することを前提に「N2」レベルを要求する養成学校もあります。一方で、定員の充足率低下を穴埋めする施策として、必要な語学レベルを引き下げて受け入れ数を確保する学校があるのも否めない事実です。

受け入れる学校のスタンスにより、そこから輩出される留学生の質に大きく差があるという点は注意しておきたいポイントです。

まとめ

今回の記事をご覧いただいてもわかるように、3つの枠組みごとに求められる日本語レベルが異なるだけでなく、EPAや留学制度では求められる要件がより細分化されレベルにバラつきがあることに注意が必要です。

また、そもそも日本語が話せないことによりコミュニケーションがうまくとれず周囲から孤立し、帰国してしまうといったケースも発生しています。だからこそ、3つの枠組みを利用して外国人介護士の受け入れを検討するのであれば、こうした事実にもしっかりと向き合っていくべきです。

入国前に一定レベルの言語水準を一方的に要求するだけでなく、受け入れ側としても、入国後も着実に日本語を学習できる環境を提供するなど、定着につながるためのサポートをしていくことが求められるのではないでしょうか。



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