技能実習生の失踪:政府は真の原因を見ていない?

技能実習生の失踪:政府は真の原因を見ていない?

外国人介護士

技能実習生の失踪:政府は真の原因を見ていない?

 

2023年8月9日の日本経済新聞に、「技能実習生、1.2万人所在不明 失踪防止へ転職容認検討」と題した記事が掲載されていました。

URL:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE065Z40W3A700C2000000/

記事の内容を要約しますと、賃金に対する不満等から失踪して不法就労するケースが増えているようです。その対策として技能実習制度を廃止し、新しい制度下において転職をある程度容認するべきであるという検討会の中間報告が発表されています。しかし、転職容認では根本的な問題は解決しないのです。

<目 次>

◆ 失踪の事実

◆ 失踪者の大多数、不法就労の背景

技能実習制度の廃止も、解決への道は険しい

原因の根本は、外国人材の母国にあり

 まとめ

◆ 失踪の事実

技能実習制度で30万人以上の外国人が働いている一方で、2023年4月現在、約1万2千人の所在が不明であることが明らかになりました。2012〜22年の失踪者は約6万8千人で、うち約4万6千人は出国が確認され、退去強制手続き中や難民申請中も合わせると全体の8割は所在が判明しています。多くは失踪後1年以内に所在が把握され、23年4月時点で不明なのは17%にあたる1万1902人でした。

一方、技能実習制度とよく比較される「特定技能」は2021年末に約5万人が在留していましたが、同年の不明者は76人でした。また、2023年2月までに約7,800人が転職しています。転職可能な仕組みが失踪を未然に防いでいると言えるでしょう。

◆ 失踪者の大多数、不法就労の背景

失踪者の大多数は、生計を立てるためや、来日する際の借金返済のプレッシャーから、不法に働いていると見られます。不法就労者は、公的な保障、例えば健康保険や労災補償の対象外となるため、困難な状況になった際に支援を受けることが難しくなります。もちろん、この不法就労者を採用する企業側にも責任があります。税金や保険の支払いを逃れるだけでなく、不法就労者の弱い立場を利用して過度に利益を追求する企業も存在するため、そのような企業の活動を制限する必要性が高まっています。さらに、経済的な困窮から犯罪に走るリスクもあるので、不法就労の抑制が必須です。

◆ 技能実習制度の廃止も、解決への道は険しい

政府は技能実習制度を廃止し、新制度での転職の条件を柔軟にすることを試みて、失踪者や不法就労者の問題に取り組む方針です。その一方で、企業優先の方向性を批判されている「監理団体」についても、より厳しい監視を求める動きがあります。とはいえ、外国人材を招く法人が一人当たりのコストを数十万円も負担している現実を考慮すると、完全な転職の自由は難しいのが現状です。さらに、問題が多いとされる監理団体を使わざるを得ない仕組みは継続しそうです。このような背景から、従来の制度の主要部分は保持され、表面的な改正だけで解決する可能性が高まっています。これでは失踪者や不法就労者の大幅な削減は期待しにくいかもしれません。

◆ 原因の根本は、外国人材の母国にあり

技能実習制度を廃止するなど、日本国内の法律や仕組みを再構築しても、失踪者や不法就労者を生み出す根本的な原因は外国人材の母国で生じているため、解決は難しいでしょう。根本的な原因、それは「多額の借金」です。外国人材の母国では、日本で働くために日本語の勉強の費用や、日本へ送り出す「送り出し機関」へ支払う手数料など、多額の費用が必要となります。そのため約半数の外国人材が借金をしており、平均で約55万円との報告が公表されています。

URL:https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/86739.html

ベトナムが最も多く約67万円となっていますが、中には100万円以上の借金を背負って来日するケースも珍しくありません。

多くの外国人材は、しっかりとした返済計画を持ちつつも多額の借金を背負います。しかし、日本の雇用条件が正しく伝えられないため、予定していた手取り額に達しないことがしばしばです。円安の影響で、母国通貨での受取額が減少すると、予定の返済がさらに難しくなります。高収入を求めて他の職場へ移りたいと考える外国人材も多いのですが、技能実習制度で転職は認められていないので、結果として失踪や不法就労の道を選ぶことになるケースが増えています。実際、この多額の借金問題は外国人材の母国の社会構造と密接に関連しており、日本の制度の見直しのみでは、真の解決は難しいと言えます。

◆ まとめ

外国人材が多額の借金を背負わないための手段として、日本政府が送り出し国に対して過度な借金をさせないような体制づくりを要請する方法や、日本の受け入れ企業が来日に必要な費用の一部をサポートする方法が考えられます。ただ、日本政府が送り出し国に要請することは可能ですが、それを強制することは難しいと思われます。今のところ、外国人材を受け入れる法人が費用を一部補助する、または外国人材から不当に高い手数料が請求されていないかのチェックを行うくらいしか方法はなさそうです。今後のコンテンツで、多額の借金をさせない方策について検討していきたいと考えています。