勝ち組と負け組の2極化へ 人を制する者が介護事業を制す① ~離職率は低下も採用は?~

勝ち組と負け組の2極化へ 人を制する者が介護事業を制す①  ~離職率は低下も採用は?~

外国人介護士

勝ち組と負け組の2極化へ 人を制する者が介護事業を制す①

~ 離職率は低下も採用は? ~

 

人材不足が叫ばれて久しい介護業界ですが、令和3年度「介護労働実態調査」をよく読むと、少しずつではありますが変化の兆しが出てきているのかもしれません。マスコミの報道に振り回されるのではなく、実態調査の結果から業界全体の変化と個別の変化を、2回に渡ってご説明いたします。

 

<目 次>

◆ 離職率は低下傾向

◆ 需要に供給は追いついているか

◆ コロナ後の人材不足の影響

◆ まとめ

◆ 離職率は低下傾向

離職率の経年変化を見ますと、訪問介護職員は平成26年度から令和3年度まで上下はあるものの全体的に見ると右肩下がりとなっています。また、介護職員は確実に低下の一途をたどっており、関係各位の努力が実りつつあると言えるでしょう。

離職率の推移.jpg

(令和3年度「介護労働実態調査」より)

 

また、サービス業として比較される【 宿泊業・飲食業 】 や【 生活関連サービス業・娯楽業 】だけでなく全産業の平均と比較しても、介護業界の離職率が決して高くないことがわかります。

産業別離職率.jpg

(令和3年度「介護労働実態調査」より)

 令和3年度の【 宿泊業・飲食業 】の離職率は25.6%、【 生活関連サービス業・娯楽業 】は22.3%であり、相変わらず高水準が続いています。コロナ禍の影響は否定できませんが経年変化を見ると介護分野は業界全体として離職者の減少に成功しつつあると言えます。但し、「介護労働実態調査」を読むと、勝ち組・負け組の2極化の表れと捉えることができます。詳しくは次回ご説明いたします。

 

 

◆ 需要に供給は追いついているか

離職率が低下傾向かつ全産業と比較しても決して高くないのに、人手不足感が強いのはなぜでしょうか。それは介護需要の拡大に人材供給が追いついていないからです。
厚生労働省が発表している【第8期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について】を見ますと、令和元年度(2019年度)の介護職員数は約211万人とされています。これが要介護者の増加により令和5年度(2023年度)には約233万人が必要とされています。つまり介護職員を約22万人増やさなければならないのです。

介護人材の必要数について.jpg 

それでは、これまでに介護人材がどれだけ増加したのでしょうか。

厚生労働省発表の雇用動向調査結果によると、令和2年(2020年)は約4万4千人、令和3年(2021年)は6万4千人、2年間で約11万人の医療・福祉人材が増加したとされています。医療・福祉人材と表現されているので全員が介護人材ではありませんが、2020年から2023年の4年間で必要とされる22万人のうち、半分近い人数を確保できたのではないでしょうか。

 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/22-2/index.html

(令和3年雇用動向調査結果の概要、産業別の入職と離職参照)

 2020年から2023年の4年間の半分、2年間で目標の半分近い介護人材を確保できたと仮定すると、予定通りに人材を集められたということになります。しかし、人手不足感が拭えないのはなぜでしょうか。それは2022年の労働市場に変化があったからだと思われます。

 

 

◆ コロナ後の人材不足の影響

コロナ禍が原因で制限された経済活動が、ワクチン接種率の向上等の理由により再開されました。それに伴い、労働者が離れていた宿泊業・飲食業や生活サービス業・娯楽業での採用が活発になっています。2019年のコロナ禍を機に他業界は行動制限の影響を受け、採用を大幅に減らしました。人手不足かつ安定的な仕事である介護業界にとっては追い風となり、介護・福祉分野の有効求人倍率が緩やかですが低下したと考えられます。

介護職_有効求人倍率_推移_.jpg

https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/21/backdata/02-01-05.html

(厚生労働省HP参照)

 

しかし、足元では確実に介護・福祉分野の有効求人倍率が上昇しています。

※2022年 厚生労働省HP 一般職業紹介状況について 参照

1月

2月

3月

4月

5月

6月

5.24%

5.19%

4.24%

4.46%

5.35%

5.69%

7月

8月

9月

10月

11月

12月

3.7%

5.8%

6.04%

6.13%

6.26%

 

季節要因等もあり数字は確定していませんが、もはや3%台の数字は稀となっています。このままの勢いで12月を迎えたと仮定すると、2022年は5%台の有効求人倍率となった可能性があります。つまり、2022年は医療・福祉人材が過去2年間のように増えなかったと想定できるのです。

令和5年度(2023年度)に必要とされる233万人の介護人材の確保に黄色信号が灯っているのは間違いありません。それは同時に介護事業者にとって厳しい局地戦が待っていることになります。その局地戦を勝ち抜くヒントも「介護労働実態調査」のデータが示しています。次回はそのデータについてご説明いたします。

 

 

◆ まとめ

介護業界の長年の努力により、離職率は年々低下傾向にあります。また、入職者と離職者の差異を見ても入職者が増えており、令和5年度(2023年度)に必要とされている介護人材233万人達成まであと一歩のところまで来たと思います。しかし、コロナ禍が労働市場に歪みを与えたため、目標の達成が危うい状態になっています。「介護労働実態調査」を読みますと、人材確保に成功している傾向を読み解くことが出来ます。人材確保に苦戦している介護事業者にとって貴重なヒントとなるでしょう。次回は人材確保・定着の失敗・成功の傾向についてご説明いたします。