介護業界と円安 ベトナムとインドネシア

介護業界と円安 ベトナムとインドネシア

外国人介護士

介護業界と円安 ベトナムとインドネシア

 

(目次)

◆円安の具体的な影響

◆両国の対応が分かれた理由:借金問題

◆できるだけ借金を増やさないために

◆まとめ

 

日本経済新聞の一面(2022年10月9日)に掲載された「進む円安 細る外国人労働者」をご覧になられた方も多いと思います。介護業界と円安はあまり関係ないように思われがちですが、円安は日本経済が弱くなったとも言えるため、外国人労働者から見ると「日本の魅力(お金)」が低下しているのです。ただ、魅力の低下具合も国によって異なります。ベトナムとインドネシアを比較して円安の影響を確認します。(「円安の衝撃! 選ばれなくなる日本」も是非お読みください)

 

 

◆円安の具体的な影響

ここでは円安の影響をわかりやすくご説明するために、ベトナム介護人材・インドネシア介護人材の給料の手取額(税・保険・住宅費等控除後の銀行振込額)を15万円と仮定します。

まず、多くの外国人介護人材は手取15万円を3つに分割します。

①生活費:5万円  ②貯金:5万円 ③仕送り・借金返済:5万円

このうち、「①生活費」は日本で使いますから、円安により消費者物価指数が8月に前年比3%上昇したという影響に留まります。ただし、生活費(水光熱費・食費・通信費・遊興費等)で5万円は決して余裕がある金額とは言えません。また、日本の生活費はこれから上昇しますので、多少なりとも円安の影響は免れないでしょう。

円安の影響が強烈に直撃するのが②および③となります。

円とVNDとIDRのレート表.jpg

5万円をベトナムドン(VND)およびインドネシアルピア(IDR)へ交換した場合、この一年間でVNDが21%、IDRが16%も円安となったので、母国通貨での受け取り額が減った計算となります。

「②貯金」を円で行っている限り、円ベースでは円安の影響はありません。しかし、円で計算するのは日本人だけであり、外国人介護人材は「母国通貨だと◯◯VND」と考えるのが普通です。最近の急激な円安で、なかなか貯金が増えない状態になっています。

特に円安の影響を感じているのが③の仕送りを心待ちにしている家族かもしれません。円安の影響で仕送りの金額が大きく減っているからです。1年前は5万円の仕送りで100個の物を買えたのに、今は80~85個しか買えないのです。仕送りの主な使い道は食費等の生活費・弟妹の学費・親の借金返済等ですから、約20%前後の減少はとても影響があるのです。これにインフレの影響(9月 ベトナム:3.94% インドネシア:5.95%)を加味すると、昨年の10月には5万円の仕送りで100個買うことが出来た物が、今では75~80個しか買えないのです。

しかし、ベトナムとインドネシアの差はわずかに5個分です。これだけでベトナムの介護人材が集まらず、インドネシアの介護人材が集まる理由になるのでしょうか。

 

◆両国の対応が分かれた理由:借金問題

なぜ両国に差が生まれたのか。その理由は簡単です。「借金の多さ」に理由があります。

2022年7月26日に出入国在留管理庁が発表した「技能実習生の支払い費用に関する実態調査について(結果の概要)」によると、来日前の借金総額が、両国では大きく異なります。ベトナムから来る技能実習生の借金総額の平均は67万4千円、インドネシアは28万2千円、両国には約40万円の開きがあるのです。

技能実習生_借金_.jpg

なぜ借金の多さと円安が関係あるのでしょうか。

借金の多くは親戚や送り出し機関から借りているようです。毎月日本円を母国通貨に交換して返済していますが、円安になると毎月の返済額が少なくなってしまいます。返済額が少なくなっているのはベトナムもインドネシアも同じですが、ベトナムは借金総額が多いため返済期間が長くなり、金銭的負担だけでなく心理的負担も大きくなるのです。

これでは、「②貯金」が円安で目減りするだけでなく、貯金する予定のお金を借金返済に回す必要もあるため、「まるで2重にも3重にも課税されている感覚だ」と言った送り出し機関の担当者の言葉が、ベトナム人介護人材の気持ちを代弁しているでしょう。この借金の多さがベトナム介護人材を日本から遠ざける要因の一つになっているのです。(より高い給料を求めて失踪・転職する要因にもなっています)

 

◆できるだけ借金を増やさないために

それでは、来日するベトナム介護人材・インドネシア介護人材が借金を増やさないためにはどのようにすれば良いのでしょうか。

例えば、弊社では介護人材をご紹介する受入法人様に、日本語・介護教育の費用に加え来日の渡航費用等のご負担をお願いしております。これにより介護人材は過度な借金を背負うことなく、円安の影響を最小限に抑えることができています。また、過度な借金を背負わずにチャンスを与えてくれた受入法人様に恩を感じる介護人材がほとんどのため、本当に一生懸命働いてくれます。

「日本で働きたいなら、勉強や渡航費は本人負担が当たり前だ」

「できるだけ安く外国人介護人材を採用したい」

このようなお声をよく耳にします。残念ながら黙っていても外国人介護人材が来てくれる時代は終わりました。どうしたら来てもらえるかを考える時代になっているのです。

 

◆まとめ

ベトナムやインドネシアだけでなく、他のアジア諸国も経済発展が続いています。それに対して日本は低迷を続けており、経済格差が縮小しています。また、コロナ前とコロナ後とでは世界が一変し、日本の地位低下に拍車がかかりました。この影響は今後加速すると思われます。円安の影響は本当に大きいです。他国を見れば自国通貨が米ドルに対して日本ほど安いところはありません。逆に米ドルに対して高くなっている国もあります。今、日本に来てくれる理由は、単に入国手続が簡単で来日しやすく就職先が多いからだと言えるでしょう。しかし、高所得のアジア各国も高齢化に伴う介護人材の不足が予想されており、徐々に門戸を開きつつあります。次回は他のアジア諸国と比較した日本の立場についてご説明いたします。(「円安の衝撃! 選ばれなくなる日本」も是非お読みください)

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