【スペシャル対談】新法案が始動、これからをどう生き抜く?ニッポン人。
専門性の高い介護スタッフ、外国人労働者、テクノロジーの三位一体で、
介護業界にあたらしいプラットフォームをつくる

オリックス・リビング株式会社
取締役社長 森川 悦明

×

株式会社ハンディネットワーク インターナショナル
代表取締役 春山 哲朗

スペシャル対談vol.1
2019年1月15日

出入国管理法の改正によって、外国人労働者の働き口として介護業界が注目を集めています。そうした動向に対して、介護現場ではどのような変化が起こるのでしょうか。関東・関西で有料老人ホームを展開するオリックス・リビング株式会社の取締役社長で、高齢者住宅経営者連絡協議会の会長を務める森川悦明氏に、お話をうかがいました。

介護とは、潜在能力を活発化させて、
活動量や参加の機会を増やす

春山 森川社長と当社は、創業者であり私の父・春山 満からのお付き合いになります。

森川 はい。春山先生には、2005年のオリックス・リビング立ち上げのときから、取締役・総合プロデューサーとして経営に参画していただき、大変お世話になりました。

春山 その後、介護業界はどのように変化してきたのでしょうか。

森川 ここ15年の間に、高齢者住宅の役割がずいぶん変わりました。いわゆる「収容施設」と言われてきた介護施設から「住まい」へと変化し、「サービス付き高齢者向け住宅」というあたらしい類型の住宅ができたことで、様々なサービスを展開する施設が増え、入居者にとっては選択の幅が広がっていると思います。国の方針も在宅重視へと変わり、施設一辺倒ではなくなりました。そのため、型にはまった介護施設は変革を求められ、今後は経営者の努力がより一層必要となるでしょう。

春山 高齢者住宅が増えたことで、介護スタッフの人手不足も問題になっていますね。

森川 そうですね。そのために、介護サービスを提供する側としては生産性を向上させる工夫をしなければなりません。

春山 オリックス・リビングさんでは、そのひとつの取り組みとして、テクノロジーを導入されていますね。効果はいかがですか?

森川 当社では、訪問介護記録を電子化するためのシステムを導入しました。従来は複写式の紙に書き込み、それを関係各所でさらに転記をしていた訪問介護記録表が、タブレット端末上で入力・共有できるようになったので、作業ミスや無駄な重複作業をする手間がなくなり、労働時間を大幅に軽減することができました。

春山 すごい効果ですね。

森川 テクノロジーは、事務的な作業においては人より正確でスピーディです。ただし、人手不足の解消という観点で選んでしまっては、活用の仕方を間違う恐れがあります。今、介護業界は転換期に入っています。これまでの「困っている人に手を差し伸べる」介護から、ご入居者の「潜在能力を活発化させて、活動量や参加の機会を増やす」介護が必要とされているのです。そのためには、理学療法士などのスペシャリスト以上に、日常生活そのものをアセスメントして、自立をサポートできる専門性の高い介護スタッフが現場にいなければなりません。テクノロジーは、そうした専門性が高い介護スタッフをサポートする存在として活用します。例えば当社が導入している館内記録システムでは、あるご入居者がアクティビティに参加するために、歩いて行ったのか、車椅子で行ったのかなど、日常生活の細かな様子まできちんと記録できます。

春山 たしかに、新しいリソースを組織に導入するときは、活用の仕方が大変重要ですね。2017年11月の技能実習法施行により、2018年7月、初めて介護職種の受け入れがありました。また、2018年12月の入管法改正により、新在留資格特定技能の対象職種に介護・外食・宿泊というサービス業が本格的に仲間入りしました。外国人介護スタッフも、これからいよいよサービス業の現場に入っていくことになります。

森川 そうですね。これからは、専門性が高い介護スタッフ、テクノロジー、外国人技能実習生、こうした特徴が異なる3つの要素をどのように統合して、ご入居者の日常生活をおくる力を引き出していくのか。経営者は、サービスをデザインすることが求められるでしょう。

労働に意欲的で勤勉な技能実習生

春山 外国人介護スタッフは、ご入居者に受け入れられるでしょうか。

森川 歓迎されると思いますよ。春山社長にお誘いいただき、ベトナムの技能実習生の研修現場へ視察に行ったのは2年前。わたしは現地の様子を見て、驚きを隠せませんでした。それは、彼らの熱心さというか、働く意欲が想像以上に高かったからです。彼らのそうした熱意に、入居者の方も感心するはずです。

春山 たしかに、彼らの働く意欲は大変高いと思います。先日研修に参加していたベトナム人は、農家の6人きょうだいの末っ子で、看護師の免許を持っていました。ベトナムでは、看護師の資格を取るのは大変むずかしいのですが、免許が取得できても働く場所がありません。多くの人は、高度な資格を持ちながら、医療・介護とはまったく異なる自動車の部品工場などで働いたりしているのです。彼らは、日本でお金を稼ぎたいという思いももちろんありますが、何よりも免許を生かしたいという思いが強い。日本で学んで帰るとプライオリティが高くなり、現地での職も見つけやすくなります。こうした点は、これまでの技能実習生とは異なりますね。

森川 そうですね。専門知識をもち仕事にも熱心な人たちです。

春山 外国人労働者を受け入れるまでのスキームはある程度完成しましたが、受け入れた後の管理システムについては、これから整えていかなければなりません。全国に監理団体は配置されていますが現場に毎日いるわけではないので、基本的にはそれぞれの施設で受け入れ体制を整える必要があるでしょう。ここが十分に整備されないと、外国人労働者の大きな流入に繋がっていかないのではないかと感じています。森川社長は受け入れ体制として、具体的にどんなことを考えていらっしゃいますか。

森川 当社で受け入れるとしたら、複数名の外国人スタッフを、同じ現場に配置します。これは孤独感を感じさせないための、メンタル面の配慮です。そして、彼らが、どう働いていきたいかを、こちらで整理することが必要となるでしょう。日本と海外とではアイデンティティが違います。何のためにその行為を行っているのか。またその行為がご入居者にどのような意味があるか。それを繰り返すことによってどういう効果をもたらすのか。細かいチェック項目を作成することで、外国人スタッフの皆さんを段階的に導いていく必要があると思います。介護はチームプレーですから、問題を解決するときに必ずチームメンバーに加わってもらうなど、積極的に実践の場を提供することも大切ですね。

介護業界で、国籍問わず
求められる人材とは

春山 今回の法改正によって、外国人技能実習制度と新在留資格特定技能を組み合わせると、最高で10年間日本で働けるようになります。そうすると、ゆくゆくは日本人の介護スタッフ以上の働きをする外国人も出てくるのではないかと思っています。今後の人事評価については、どのように考えていらっしゃいますか。

森川 スタッフを評価する上で一番大切なことは、ご入居者の尊厳を保てる介護ができているかどうかです。尊厳とは、その人自身の中にあるもので、それを取り戻すことが介護サービスを行う上では大切です。言葉の壁は、2~3年あれば十分克服できるでしょう。それよりも、最愛の人を失った悲しみや、身体が動かなくなったときの怒りなどの気持ちに寄り添えるかどうかです。そうした気持ちから発生する日常的に起こる問題に対して、どのように解決していけばよいかを考え、必要に応じてチームケアをつくっていくことが求められます。残念ながら、今の日本の介護現場では、こうした教育がまだ浸透しきれていません。

春山 なるほど。まずは、外国人介護スタッフを平等に評価するための土壌づくりが必要なわけですね。そのために、経営者としてするべきことは何でしょう。

森川 これはやはり王道が一番で、社員へ経営方針として伝え、先導していくことです。経営方針が現場にしっかり浸透しているかどうかで、ご入居者のしあわせの度合いは全く異なります。データのコピーは簡単にできますが、大事なのは、魂がどこにあるのかということだと思います。

日本人ひとり一人が、
信念をもって働く社会

春山 先ほど森川社長がお話されたように、これからは業界問わず、専門性の高いスタッフ、外国人労働者、テクノロジーが三位一体となったプラットフォームをつくる必要があると感じています。そんな中で、今後日本人はどういうことが求められるでしょうか。

森川これからの社会では、誰しもが国や会社に依存することなく、自分を高めていくことが要求されるし、自分たち自身で信念を築いていかないといけないでしょう。日本はすでに超高齢社会で、今の日本は、後期高齢者がマジョリティとなるのです。

春山 これから外国人労働者が3年、5年、10年というスパンで日本に滞在するようになれば、より一層、ひとり一人の自立が求められてきます。外国人スタッフから優秀な人が出て来れば、経営者としては、パフォーマンスがよい方を採用するでしょうし。現場の即戦力としてこの競争に勝てる人材となるのか、あるいは、外国人労働者をマネジメントできる立場を目指すのか、日本人も自身の働き方を考えていかなければなりません。わたしは今回の法改正で、介護業界で求められる人材像が変わるんじゃないかと思っています。

森川 それはあるかもしれないですね。将来、施設のフロアリーダーを外国人が勤めることや、以前看護師として勤めていた専門性の高い高齢の方が、早朝や深夜など一定の時間をパートで勤めるという形になることも十分考えられます。介護とは、介護が必要な人が、自立という尊厳を取り戻すための支援をするという崇高な仕事です。そのために、われわれ経営者は、つねに頂きは先にあると胸に刻み、もっと現状をよくしていかなければならないということに気づく必要があります。

春山 現状維持の精神は、介護業界全体の根強い問題のひとつでもあります。本日は、介護業界で経営者としてさまざまな取り組みを実践されている森川社長から、ご経験に基づく信念をおうかがいすることができました。法改正を機に、日本が大きな変化を迫られています。新時代を築くためには、私たち日本人は自ら気づき、私たちから変わらなければいけません。

ゲストプロフィール
森川 悦明
ハウスメーカー、デベロッパーを経て、2000年にオリックス株式会社に入社。2003年、オリックス不動産株式会社にて、それまでの介護施設の概念を超えた高齢者住宅を大型複合開発に取り入れたプロジェクトを担当し、コミュニティに介護サービスの新しい付加価値を実現。2005年には、開発した高齢者住宅を自ら運営するオリックス・リビング株式会社を設立し、社長就任(現在)。2010年、施設類型の枠を超えて業界の地位向上を目指す〝高齢者住宅経営者連絡協議会"発足とともに会長に就任。