【スペシャル対談 旅行編】 旅行業のスペシャリスト、ユナイテッド ツアーズ 代表取締役社長 山本 龍二のグッドタイム

「第三の人生をハッピーに過ごしたい」と願う人の気持ちを叶える旅行を提供したい。

ユナイテッド ツアーズ
代表取締役社長 山本 龍二

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株式会社ハンディネットワーク インターナショナル
代表取締役 春山 哲朗

スペシャル対談 旅行編
2019年7月15日

"普通"のサポートを"普通"にできる旅行を実現したかった

春山哲朗(以下、春山) この度、御社と私どもハンディネットワーク インターナショナルは、介護付き旅行業の業務提携をさせていただくことになりました。そもそも山本社長が、介護付き旅行に関心を持たれたきっかけは何だったのでしょう。

山本 私が旅行会社に入って5年目のとき、ある団体の旅行に同行して、イタリアのロッピアーノや奇跡の水と言われるフランスのルルドの泉に行ったのです。そこはいわゆるサンクチュアリ(聖域)みたいなところで、ハンディキャップを抱えた人もそうでない人も、みんな普通に、平等に過ごす共同村だったのですが、その光景を見たときに衝撃を受けました。日本では見られない人間同士の関わり合いがあったのです。それがずっと心の中にあって、そんな中で春山さんと出会い、春山さんの介護付き旅行の取り組みに深く共鳴しました。

春山 たしかに、日本は高齢者や障がい者を健康な人たちと区別し過ぎているところがありますよね。ワールドワイドな視点で見ると、ここまでしっかり分けるのは区別ではなくて差別の領域に入るんじゃないかと感じています。例えばアメリカでは、道を車いすで自走している方がいると、周りの人たちが自然に手を差し伸べます。特別に勇気を出してやっているわけではなく、日常の出来事として。日本は、こういう心のバリアフリーというか共に暮らし合う調和の文化がまだ浸透していない気がします。

山本 そうですね。海外では、そういう普通のサポートを普通にできる旅行会社もたくさんあります。ただ通路を整備するとか、きれいにするとか、そういう問題ではないんです。外国の人は、ここは障がいのある方は行けないとか、そういう発想がない。本来は誰もが世界中どこへでも行けるし、行く場所に不便があっても、現地の人がサポートしてくれるわけですから。だから、道が整備されていないとか、階段が多いとか、そういう理由で旅行に行けないというのはナンセンスだということを、もっと訴えていく必要がありますね。

個人個人のベストシーズンに対応する"ニッチ"なサービスを提供したい

春山 私がグッドタイム トラベルをはじめたきっかけは、自分が高齢になったときに介護保険のサービスだけで満足して暮らせるとは考えられなかったからです。日本のシニアビジネスの多くは、介護保険適用のサービス・商品がほとんどです。介護保険適用のサービスは基本的に生活する上でなくてはならないサービスが対象になるため、旅行は介護保険の対象となりません。旅行は生活に絶対必要なものではなく、贅沢なことという位置付けにありますから。でも、私の想いと同じように、年をとっても旅行をしたい方は必ずいるわけで、費用はかかっても行きたいという方々の望みを叶えたいと思いました。

山本 なるほど。少し話がずれるかもしれないのですが、私の会社では海外への修学旅行も手配しています。生徒さんのなかには、配慮が必要な方がいます。例えば、精神疾患があったり、いわゆる不良のレッテルを貼られるような子どももいたりするのですが、モンゴルの大平原で1週間くらい過ごすと、登校拒否や大人への反発がなくなるという現象が起きています。乳搾りなどの農業体験をしたり、自分たちで考えて行動しないと誰も助けてくれないような環境にいたりすることで、学校で1年かけて情操教育をするよりもはるかに早いスピードで心が豊かになるんですね。そういうことを考えても、旅をして何かを体験するということは、人生において必要なことだと思います。

春山 そうなんです。世の中の人ってニーズを追いかけがちですが、私はニーズだけでは物足りないと思っています。人が心の中に持っているウォンツをどれだけ掘り下げられるかが、サービス業として大事なことなのではないかと。そういう視点で、高齢者の方々のウォンツに応える商材は何かと追求したときに、旅行がぴたっと当てはまりました。すでに、旅行に行かれたお客様が旅行前より元気になられたという実例もあり、生きる活力になるようなサービスを提供できていると思っています。

山本 例えば、ローマは遺跡の街で長い階段がたくさんあるのですが、現地では何の問題もなく普通のツアーをやっています。それからイタリアではブラインドツアーという目の不自由な方のためのツアーがあったり、障がい者の方がアフリカの大自然の中で動物とふれあうようなツアーもあります。人件費がかかるのでは、という話も出てきますが、春山さんがおっしゃっているように、私どもも「第三の人生をグッドタイム、ハッピーに過ごしたい」、そのためにはお金を積んででも行きたいと願う人の気持ちを叶える旅行を提供したいと思っています。そういう意味では、ユナイテッド ツアーズという会社は、ニッチな世界でのトップを目指しています。

春山 なるほど。ニッチの中でトップを狙うという発想は非常に参考になります。具体的には、どういうことを意味するのですか。

山本 例えば、春山さんがマイナス20℃のモンゴルに行くとしたら、寒過ぎてベストシーズンじゃないと感じますか。

春山 はい、そうですね。

山本 でも、凍てつく氷の世界を体験したい人にとっては、ベストシーズンはマイナス20℃なんです。日本の旅行会社の多くは「ベストシーズンはこの時期」と決めがちですが、本当のベストシーズンは、旅行に行く人が自分自身で決めるものです。だから、ウエルカムのホスピタリティさえしっかりしていれば、色々な旅のプランがあってもいいと思っています。日本の旅行会社がそういうプランが少ないのは、海外旅行であっても現地手配まで日本人同士で完結しようとしているからです。現地に住む日本人よりもローカルの旅行会社と組んだ方が、その国に対する理解も深いし、さきほど話したような差別のような文化もありません。

春山 たしかにそうですね。海外に旅行したとき、現地で直接ローカルの旅行会社に行けば、色々なプランやサービスを受けられることがあります。でも日本人って、そういう現地リサーチが苦手な人が多いですね。

山本 これから春山さんと一緒にやろうとしていることも、思いきりニッチな旅行にしたいですね。私の会社は、とくに台湾とハワイのネットワークが強いのですが、若い頃にまだ高額だったハワイに旅行をしていた高齢者の方々が、要介護になったけれど、憧れのハワイにもう一度行けてよかったね、というような。介護の資格をもつ旅行専門のスタッフによる本質的な介護旅行を提供したいと思っています。そこは御社の知識や経験の知恵をお借りして、他の会社がやりたくてもできないような、ニッチな介護旅行を提供したいです。

サービス業から社会貢献まで。第三の人生を「グッドタイム」にするために

春山 山本社長は、以前は近畿日本ツーリストの団体旅行を専門とする部署に長く勤めていらっしゃいましたよね。

山本 はい。団体ツアーでしたので、運営上効率性を重視しなければならなくて……。だからこそ、春山さんとのツアー企画では、ずっと世の中に発信したいと思っていたロッピアーノやルルドの泉で感じた想いを実現したいと考えています。

春山 御社は、東京2020オリンピック・パラリンピックのオフィシャルパートナーであるKNTICTホールディングスのグループ会社ですね。御社も応援に参加されていると伺いました。

山本 そうなんです。プロボノ(職能を生かす新しいボランティアの形)として、利益を追求するだけではなく、私どもが扱っている海外旅行という分野で社会貢献も行っていきたいと思い、参加しました。その取り組みを拡大して、訪日インバウンドにも力を入れていきたいと思っています。そういう面でも、ぜひ御社のお力をお借りしたいです。

春山 ありがとうございます。私どもがしていることは、お客様とホテルや観光地の間に立つコンシェルジュのような役割だと思っています。例えば、山本社長のような旅行業を専門としていたり、ホテルを運営していたりする方々は、介護は専門外なので、要介護のお客様を受け入れたくてもどう受け入れてよいのかわからない。気持ちはあっても対応が十分でないと、相手に悪い印象を残してしまいます。そうした行き違いを、私どもが双方の情報を理解して、双方にきちんと伝える。伝えることができれば、日本のサービスレベルからすると対応は十分可能なので、そうした仕組みを今後より強固にしていきたいと考えています。

山本 心強いです。私どもも、海外留学やスポーツ競技のサポートなど、旅行業から派生するニッチなサービスを日々拡大中です。そこにも、体や心の病気でバリアを感じている人たちが "あきらめていた夢"を叶えられるようなサービスをしていきたい。今、御社が掲げている"グッドタイム"の見本となったデンマークの素晴らしい第三の人生ってどんな暮らしなのか、自分なりに理解を深めているところです。共にがんばりましょう!






ゲストプロフィール
山本 龍二 Ryuji Yamamoto
株式会社 ユナイテッド ツアーズ 代表取締役社長
1957年生まれ。80年に近畿日本ツーリスト(株)に入社。2012年同社執行役員、13年近畿日本ツーリスト(株)取締役、クラブツーリズム(株)取締役、近畿日本ツーリスト個人旅行代表取締役専務を務め、2016年、現職に就任。

出典
▼日本の老いに対して新しい価値を創出する電子マガジン「Good Time」07号
https://goodtimetravel.jp/booklet/