EPAで受け入れた外国人介護士を中核人材として活用するという選択肢

EPAで受け入れた外国人介護士を中核人材として活用するという選択肢

外国人介護士

前回の記事ではEPAで入国した3人のうち2人はのちのち帰国してしまうという現実を解説しました。受け入れに際しても施設としてさまざまな高い要件を求められ、受け入れ後には介護福祉士の試験合格のためのサポートも必要となる。大きな負担を強いられる割に得られるメリットは少ないのではないか、と考える向きもあるかもしれません。しかし、EPAで受け入れするからこそ期待できる役割もあります。それが施設の中核人材としての登用です。なぜEPAで受け入れた人材を中核人材と期待すべきなのかを今回の記事では説明していきます。

日本国内の介護現場は人材の需給ギャップに苦しんでいる

何年も前から言われ続けているように介護業界における人材の需給ギャップは乖離の幅を年々広げていっています。厚生労働省の試算だと今後そのギャップがますます乖離していくことは間違いなく、その流れを解消すべく出てきたのが技能実習制度の介護分野への適用でした。2017年11月の法改正から1年が経過しましたが、着実にその数は増えていくものと思われます。

一方、日本人の介護職志望者、従事者は近年、頭打ちの傾向を示しています。

介護福祉士の試験合格者の総数自体は増加しているものの、資格を有していても介護職に就かない人が年々増加しているためです。それは介護職の業務のハードさと待遇が見合っていないことが大きな要因です。また、このような状況は副次的に人間関係の悪化にもつながっています。経営側としては状況の大きな改善は見込めない中、離職者の予防に懸命になる。その結果、現場の和を乱すような人材にも強く物を言えなくなってしまい、周囲のモチベーションは大きく低下する・・・。そういった負のスパイラルに陥っているケースが多くの現場で見られます。

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おのずと待遇の改善もしくは、より良い空気の中で働ける場所を目指し転職していきます。その選択肢は介護業界に限りません。むしろ、全業種的に人材不足が叫ばれる中、介護業界より待遇が良い業種はいくらでも見つかります。その結果、一定の想いは持っていたとしても介護の業界から離れていくのです。あまりにも悲しすぎる実情とは言えないでしょうか。

待遇の改善は本当に難しいのか

現場ではIT化の推進や人事制度の刷新、提供サービスの見直しなどを通じて効率化を図り、待遇改善を推し進めています。しかし、介護保険の制度改正が3年に1度と頻繁におこなわれることもあり、抜本的な取り組みにはリスクが伴っているというのが介護業界の経営サイドから聞こえてくる実情です。

もちろん、介護保険に依存し続ける限り、利益率の改善には限界があります。しかし、取り組みを推進しなければ、人材不足に拍車がかかり、結果として介護報酬の額も減っていくという負のスパイラルに陥ることになります。そのため、手探りながら取り組みをおこなっている事業者がほとんどのようです。一方で、攻めの経営姿勢で規模の経済を働かせ、効率化を推し進めているところも存在します。M&Aを加速させている法人も中にはあり、二極化している様子も伺えます。

EPAで来日する外国人は高いスペックの持ち主

仮にさまざまな努力の結果、待遇改善が図られたとしても介護現場に人を呼び戻すのは簡単ではありません。介護の現場はいろいろと身体的、心理的な負担が大きい、といった状況を知っている人材が、他の産業の実態を肌身で感じた後に、どれだけ再び介護業界の扉を叩いてくれるでしょうか。

介護業界としては新規に入ってきてくれる日本人を大切にするのはもちろんですが、並行して不足する人材のあてを考える必要があります。そしてその中から現場の中核となる人材を養成していかねばなりません。

この状況において、選択肢のひとつとして挙がるのがEPAで来日する外国人です。受け入れたうち3人に2人が帰国してしまうという現実は冒頭で述べたとおりですが、1人は残る計算です。その1人となる人材を中核人材として養成していくのです。その理由は大きく分けて2つあります。

1)EPAで来日する外国人は基本的なスペックが高い

以前の記事でも解説しましたが、EPAで来日する外国人は母国で高等教育を受けて来日する人材です。そのため、学習能力も高く、日本語を覚えるスピードも早いのです。そして、日本人にとっては低い待遇条件であっても彼らにとっては高待遇のため、当然ながら仕事に向き合うモチベーションも違います。

2)技能実習や特定技能の在留資格で来日する外国人のまとめ役に

ここまでの通り、日本人の新規就業は長期的にみても難しいと予想される中、介護の現場には技能実習制度や特定技能の在留資格で就業する外国人が増加していくものと予想されます。そうした人材は入国要件も例えば日本語だとN4レベルとEPAと比較すると高くないため、少なからず日本語でのコミュニケーションに苦労する場面も出てくると考えられます。そうした状況のフォローアップや彼らのメンター役などをEPAでの受け入れ人材に期待するのです。日本人スタッフとの架け橋ということも期待できるでしょう。

もちろん、母国に帰る可能性も否定できないため過剰な期待は酷です。彼らが日本国内で働いて貯めようとしている額に達するまでは、本音を隠してでも働いてくれることもあるかもしれません。しかし、就労に伴い着実にスキルアップしていくことを想定すると、どこかで待遇改善のタイミングを迎えるものと考えておくべきです。それは日本人スタッフも変わりません。ましてや外国人の場合、母国ではない国で働くという立場への配慮が求められるのではないでしょうか。

このような意見に対し、「それならば日本人スタッフでいいのでは?」という意見もあると思います。しかし、日本人スタッフの採用が困難という現状があるため、外国人に頼るのです。より正確に述べれば、日本人だけだと採用数を充当できないため、外国人にまで採用範囲を広げて人材を確保する、ということです。

ここまで述べてきたように、EPAで受け入れる外国人はスペックもモチベーションも高いという点は現場での就労に際し、大きなプラス効果をもたらす可能性があります。そのような点まで踏まえ、人材確保のひとつの方法として利用を検討する余地があるのではないでしょうか。

EPAではなく留学制度では代替できないのか

EPAと同様に、来日して介護福祉士を目指すものに留学があります。しかし、以前の記事でも見たように、留学の場合は母国で大きな借金をして来日することが多く、来日後はその借金返済のためにアルバイトに勤しむケースが少なくありません。EPAは国と国の間の経済交流の一環であるため、仲介する受け入れ機関も国が関与した信頼できるもので、それが制度利用の安心感につながっています。こうした状況は来日を検討する外国人にとってもポジティブに働いており、優秀な人材が集まる結果につながっています。

まとめ

EPAの場合は母国で日本語研修をしっかりと積んでから来日します。受け入れまで、そして受け入れからの資格合格までの伴走など施設側への負担も少なくないものの、定着後の活用の方向性さえ見いだせれば得られる果実は大きいと言えるでしょう。介護職における日本人スタッフの採用が困難な状況は当分続くものと想定される中、EPAで受け入れる外国人に期待する役割は大きなものとなってきています。



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