「特定技能」は「技能実習」の延長上?入国要件や設立背景の違いから見えてきたこと

外国人介護士

2018年臨時国会の目玉案件として、与野党間で激しい議論が交わされている在留資格「特定技能」。これはメディアでも言われているように、これまで高度人材のみを受け入れ可能としてきた方針から単純労働者まで含めるという方向へ大きく舵を切るものとして注目を集めています。
しかし、果たして本当に特定技能の在留資格は、言われているような単純労働の解禁で無制限な外国人の入国を許容する制度なのでしょうか。制度として似ているとされる技能実習制度との違いからその実像を考えていきます。

特定技能の入国要件は技能実習制度より実は厳しい!?

特定技能に関する法務省から提供されている資料では、受け入れの対象として「相当程度の知識又は経験、技能を要する業務」とあります。さらに細かく見ていくと、技能と日本語レベルに関して以下のような言及があります。

<技術に関する点>
技能水準は,受入れ分野で即戦力として活動するために必要な知識又は経験を有することとし,業所管省庁が定める試験等によって確認する
<日本語レベルに関する点>
日本語能力水準は,ある程度日常会話ができ,生活に支障がない程度の能力を有することを基本としつつ,受入れ分野ごとに業務上必要な能力水準を考慮して定める試験等によって確認する

出典:新たな外国人材の受入れに関する在留資格「特定技能」の創設について(法務省入国管理局)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kaigi/dai2/siryou2.pdf

上記からは日常会話レベルの日本語を話すことができ、業務に関する一定のスキルを有する人材の受け入れを想定している姿が浮かび上がってきます。逆の立場で考えるとわかりやすいかもしれません。日本人がアメリカで農業の仕事で働くとしましょう。その時、この特定技能で求められる条件をそのままあてはめると、「日常レベルの英会話を話すことができ、農業に関する知識やトラクターの運転スキルなども有する」ということになります。日本人の誰しもが英会話を日常生活で使えるレベルで話すことができるでしょうか?そしてトラクターの運転は誰でもできるものでしょうか?もちろん、それぞれ一定の習得期間を経れば難しいものではないかもしれません。しかし、習得することを前提に臨まない限り身につくものでもありません。こういった例からも「誰もが来日できる」という言い方はふさわしくないことがわかるでしょう。

 一方、技能実習制度で定めている「前職要件」は「本邦において従事しようとする業務と同種の業務に外国において従事した経験を有すること」と「団体監理型技能実習に従事することを必要とする特別な事情があること」としています。後者に関しては条件を3つに分けていますが、比較的緩いものとなっています。ベトナムの送り出し機関が発信している情報などでは一応日本語レベルN5は必須なものの、N4に届くレベルまで学んでもらうには限られた学習期間しかありません。短いところだと4か月程度しか研修期間を設けないようなところもあるようです。あとから技能実習制度に追加された介護分野はこれとは全く別の条件が設定されているため、条件は厳しいものとなっています。しかし、もともと技能実習制度で認可されていた業界では比較的緩い条件のもとで運用されていたのです。

特定技能の在留資格は実質的に技能実習制度の滞在期間延長施策

すでに技能実習制度がある上に、技能実習制度のほうが「誰でも入国できてしまう」要件であるにもかかわらず、なぜ新たに「特定技能」が在留資格として設けられようとしているのでしょうか。実はここが最大の要点です。

技能実習制度は制度が設けられてから一定の時間が経過しており、すでに就労期間を満了して帰国、あるいは来年度以降帰国を予定している外国人も少なくありません。特定技能の資格を新設することで、そのうち一定の条件をクリアする人材に対して再入国しての就労や、引き続き就労する機会を提供することが可能となるのです。
もちろん「一定の条件をクリア」としたように実習経験者のすべてが該当するわけではありません。実習生・元実習生のうち、「技能実習2号を修了」していることが条件となります。特定技能では技能実習2号を修了している人材に対し、試験なしで在留資格を認可する方向で調整が進められています。

要するに、技能実習制度で来日して日本で働くことで、日本語スキルも業務スキルも高まった状態にある実習生に引き続き国内で働いてもらうことこそが特定技能新設の本旨と考えられます。

<特定技能の導入が検討されている14業種>
◇建設 ◇農業 ◇漁業 ◇飲食料品製造(水産加工を含む) ◇自動車整備
◇航空(空港グランドハンドリング・航空機整備) ◇造船・船舶工業 ◇素形材産業
◇電気・電子機器関連産業 ◇産業機械製造 ◇介護 宿泊外食 ◇ビルクリーニング

宿泊や外食のように技能実習2号への移行対象ではない業種もありますが、それ以外の業種では各省庁が野党合同ヒアリングに対して回答した内容からも、技能実習制度を経て特定技能の在留資格に移行していくというのが、王道になるのは間違いありません。

まとめ

ここまでの解説でご理解いただけたと思いますが、特定技能の在留資格の新設は単純労働者の受け入れという批判は的外れです。導入が検討されている14業種のうち、すでに技能実習制度での受け入れが本格化している12業種を単純労働とみなすならば、むしろその門戸はすでに技能実習制度の設立時点で開いていたと考えるほうが正しい見方と言えます。
今回の特定技能の在留資格の新設で、日本に馴染んだ外国人の再入国や滞在期間の延長が可能となります。全く日本に滞在経験がない外国人が大量にやってくるわけではありません。そう考えると、この資格が設けられることにより、日本国内が大きく混乱するようなことは考えにくいように思われます。

一方、試験にパスすることが前提となる「特定技能2号」という在留資格では家族帯同が許可されます。しかし、特定技能2号は基本的に「技能実習3年~5年+特定技能1号5年」という期間、日本に滞在してようやく取得可能になるレベルです。仮に入国前に結婚したとしてその長期間、離れ離れで暮らすケースはあまり多くないでしょう。こういった観点からも現実的には家族帯同して永住に至るケースはゼロではないにせよあまり多くならないと見てよいのではないでしょうか。

ただし、このように日本側にとっては若くて給料が安い時期に使い倒し、一定の期間を経て帰国を余儀なくする制度設計は外国人の目にはどう映るでしょうか。自分たちの都合だけでなく、相手側の視点に立った真摯な姿勢も求められます。

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