外国人の介護士受け入れを検討する際に注意したい「就労期間」の違いとは

外国人の介護士受け入れを検討する際に注意したい「就労期間」の違いとは

外国人介護士

これまで見てきたように、「技能実習制度」、「EPA(経済連携協定)」、「留学生受け入れ」は、外国人介護士を受け入れる枠組みとして、設立された経緯もコンセプトもそれぞれ異なります。このため受け入れ対象となる国も異なれば働くにあたり取得すべき資格も異なり、さらに日本で働ける期間(就労期間)も異なります。今回の記事では、就労期間の違いについて解説していきます。

「技能実習制度」で入国した場合の就労期間について

外国人技能実習制度での受け入れを検討する際は、本制度の目的が外国人への「技能移転」であることを踏まえておきましょう。来日した外国人は働きながら「実習」を通じて技術を身につけることになります。そのため、正確には「就労期間」ではなく「実習期間」と表現した方が良いでしょう。

本制度が定める実習期間は基本的に3年間ですが、最長では5年間となります。ただし、「基本的に」としたように、最長5年間働くためには、実習開始後、いくつかの条件をクリアしなければなりません。これらの条件は技能実習生と、監理団体・実習実施者(受け入れ施設)の双方にあります。その条件をまとめたものが、以下の表となります。

外国人介護士受け入れに関する各要件

a)実習にふさわしい日本語能力があるか

  • 来日時
     →入国の条件として日本語能力試験の「N4」もしくは相当する試験(※)への合格が必須
  • 入国~1年以内(技能実習1号)
     →2年目以降も実習を続けるには、1年以内に日本語能力試験の「N3」もしくは相当する試験(※)への合格が必須
  • 2年目以降(技能実習2号・3号)は要件なし

※「相当する試験」の例として厚生労働省は「J.TEST実用日本語検定」「日本語NATTEST」を挙げています。

b)実習による技術・知識が身についているか

  • 来日時
     →入国に必須となる試験はありません
  • 入国~1年以内(技能実習1号)
     →2年目以降も実習を続けるには、1年以内に基礎級試験への合格が必須
  • 2~3年目(技能実習2号)
     →4年目以降も実習を続けるには、2年以内に3級試験への合格が必須
  • 4~5年目(技能実習3号)
     →5年目を終えるまでに、2級試験の受が必須
       ※受検の合否は、下記c)の審査に影響を及ぼします

c)技能実習3号にふさわしい監理団体&実習実施者(受け入れ施設)か

1~3年の滞在(技能実習1号、2号)についてはこの要件は求められませんが、4~5年の滞在(技能実習3号)が認められるために必要な要件となります。技能実習2号での実習期間が終了する2か月前までに申請しなければなりません。審査は項目ごとに配点されており、基準点数を上回らなければ技能実習3号への移行は認可されません。

参考資料:技能実習「介護」における固有要件について

参考資料:第3号技能実習への移行手続きの留意点(公益財団法人 国際研修協力機構)

このように技能実習制度では、滞在期間が5年以内に制限されています。しかし2018年6月に政府が発表した骨太の方針では、技能実習期間と合わせて最長10年間滞在できる新しい在留資格が検討されています。また、技能実習2号取得の必須条件である「N3」合格という要件も、ハードルが高いこともあり見直しが検討されています。今後も介護人材不足がより一層懸念されるため、さまざまな見直しや変更が引き続き議論されると思われます。

「EPA(経済連携協定)」で入国した場合の就労期間について

EPAの枠組みでは、国家資格の取得を目指すことを受け入れの前提としています。このため、取得の有無が滞在期間にも関与することになります。

a)国家資格を取得する前の介護福祉士候補者の場合

日本での就労期間は1年となります。ただし、3回に限り更新が可能なため、実質的には4年間の滞在が可能です。介護福祉士の受験資格として実務経験3年(従業期間3年以上、従事日数540日以上)が必要なため、入国後3年間は毎年滞在期間の更新手続きをおこない就労施設で実務経験を積みます。その後介護福祉士の試験を受けますが、試験は年1回のため、最長4年の間で試験の機会は1回となります。そこで合格できない場合は母国に帰国しなければなりません。(平成27年度入国者までは、試験で一定以上の得点を取れば、もう一年在留することができる)

b)国家資格を取得した介護福祉士の場合

国家資格を取得した介護福祉士の場合、資格取得後の滞在期間は最長3年ですが、滞在期間を無制限に更新できます。このため、介護福祉士と受け入れ施設で合意すれば定年まで働き続けることができます。

このように、国家資格取得の有無により待遇が大きく変わるのが特徴です。もちろん、試験に合格できず帰国した候補者が、再度受験できないというわけではありません。しかし、試験を受ける場合は、その都度短期滞在で来日しての受験となるため、国内滞在時よりも環境は厳しくなります。

また、母国への帰国後も、候補者当人が年に1回しかない受験に対して、モチベーションをいつまで維持できるかも不透明です。そのため、EPAの枠組みを検討する際には、滞在期間中の受験機会で合格できるかが大きなポイントとなるでしょう。そのためにも受け入れを検討する際には、試験勉強への協力体制がつくれるのか、法人や施設の状況を見極める必要があります。

参考資料:2019年度版 EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士候補者受入れパンフレット

「留学制度」で入国した場合の就労期間について

留学制度で入国する外国人の在留資格は「留学」となります。留学は「日本国内で勉強する」ことを前提に在留が許可されています。そのため留学生の主はあくまで勉強であり労働ではありません。ただし、勉強に差し支えない範囲として週28時間を上限に労働が認められています。介護分野において留学制度で来日する場合、まず日本語学校に1年在籍して日本語を学び、その上で介護福祉士養成校に2年間通学します。すなわち、来日から3年程度は就労時間に上限があるため、この間は事業所の現場で主力として働くことは期待できないということになります。(上限を超えて労働させた場合、事業所・留学生ともに法律で罰せられます。)そのため、この期間は留学生に実務経験を積ませる時間と捉え、戦力になってもらえると期待しないほうがよいでしょう。

しかし留学生の場合、介護福祉士養成校を卒業すると暫定的に介護福祉士の資格が取得でき、以降は最長5年間の在留期間を無制限に更新できます。「暫定的に」と記したのは、法改正により介護福祉士資格取得の付帯条項が追加されたためです。その付帯条項とは「卒業から5年間の継続的な実務経験実績」もしくは「卒業後5年以内の介護福祉士の国家資格取得」です。たとえば、以下のようなケースだと2016年以前は介護福祉士の資格ははく奪されませんでしたが、法改正により2017年以降はく奪されることになりました。

介護福祉士の資格をはく奪されるケース:

来日後、介護福祉士養成校に2年間通学して卒業。その後、介護施設にて働き始めるものの、3年後に退職。その後介護福祉士の国家試験を2度受けるもののいずれも不合格。卒業から5年が過ぎてしまった。

  • 卒業から3年後に施設を退職 → 「卒業から5年間の継続的な実務経験実績」に抵触
  • 国家試験を受験するものの不合格、卒業から5年経過 → 「卒業後5年以内の介護福祉士の国家資格取得」に抵触


要するに2017年以降、介護福祉士養成校を卒業しただけでは、暫定的な資格しか得られなくなりました。さらに、2022年以降には条件がより厳しくなります。介護福祉士養成校を卒業しただけでは、暫定的な介護福祉士の資格すら取得できなくなりますので気をつけてください。

まとめ

今回解説をした「就労期間」についても各枠組みで大きな違いがあることをおわかりいただけたでしょうか。中でも留学制度は、入国から3年間は戦力として期待できませんが、2021年までは介護福祉士養成校卒業後、暫定的ながら介護福祉士の資格を取得できるなど、中長期的な視点では大きな戦力となる可能性を秘めています。

一方で、技能実習制度で来日する外国人は、一定レベルの日本語能力に達していれば早い段階で戦力となるので、現場の人材不足がひっ迫している場合にメリットがあると言えます。

ここまで施設側すなわち雇用側のメリットに焦点を当てて説明してきました。しかし外国人の受け入れを考える際には、相手側の来日の意図やメリットも認識しておかなければなりません。来日する外国人は、母国よりも給与水準が高いからわざわざ日本に来るのであり、本音は「出稼ぎ」という経済事情によるところが大きいのです。将来母国が経済成長し日本と経済水準が近くなれば、彼らにとって日本で働く意味はありません。また、日本以外にも同等の待遇で彼らを迎えたい国々は、先進国に限らず今後も増えていくことでしょう。

少子高齢化が叫ばれ、今後も高い経済成長が見込めない日本は、彼らに「選ばれている」という認識を持ち、彼らが働きたくなる魅力を持つ必要があるのではないでしょうか。特に、外国人技能実習制度は現代の奴隷制度と揶揄されるなど、現状は望ましい状況とかけ離れています。今一度制度設立の理念に立ち返り、自らのメリットだけでなく双方のメリットを模索するべき時期にさしかかっているのではないでしょうか。



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