制度ごとに異なる、外国人介護士の送出国の違いとは

制度ごとに異なる、外国人介護士の送出国の違いとは

外国人介護士

外国人介護士の受け入れを検討する際に候補に挙がる「技能実習制度」、「EPA(経済連携協定)」、「留学生受け入れ」の3つの枠組み。それぞれの制度で実は受け入れることのできる国に制限があることはあまり知られていないかもしれません。

しかし、国ごとに人種が異なるのは当然ながら、経済事情や政情、宗教、風土、文化、価値観なども大きく異なることもあり、サービス業に携わる人材を受け入れるにあたってはそうした側面もしっかりと踏まえた上で候補人材を選定する必要があります。今回の記事では、それぞれの制度ごとの送出国に関する事情を解説していきます。

「技能実習制度」で受け入れ可能な対象国について

外国人技能実習制度での受け入れで対象国としてよく知られるのは中国、ベトナム、フィリピンあたりだと思われます。実際、すでに来日している外国人の出身国で多いのもこの3か国です。しかし対象国は年を追うごとに拡大しており、現時点(2018年8月現在)では以下の15か国となっています。

インド、インドネシア、ウズベキスタン、カンボジア、スリランカ、タイ、中国、ネパール、バングラデシュ、フィリピン、ベトナム、ペルー、ミャンマー、モンゴル、ラオス

これらの国々とは2国間での覚書の取り交わしを進めています。技能実習制度ではマスコミなどでも取り上げられているように、不正を働いたり搾取をおこなったりといった不適切な送出機関が存在します。規制を強化した覚書を取り交わすことで、そうした送出機関を排除し、技能実習制度が適正に運用されることを目指しています。現在では、受け入れ可能な対象国15か国のうち9か国との取り交わしを終えており、残る国とも順次取り交わす予定です。(2018年8月現在)

参考資料:技能実習に関する二国間取決め(協力覚書)(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000180648.html

覚書を取り交わした後は、この覚書の条件をクリアした団体のみが認定送出機関となり、それ以外の団体経由での送出は認められなくなります。そのため、対象国の選定に際しては覚書の取り交わしの有無などについても目を配る必要があることは注意しておくべきでしょう。なお、どの団体が認定送出機関かは下記リンクの国ごとの一覧PDFに記載があります。(リンク先から国ごとに覚書のPDFをダウンロードできます。)

参考資料:外国政府認定送出機関一覧
http://www.otit.go.jp/soushutsu_kikan_list/

「EPA(経済連携協定)」で受け入れ可能な対象国について

次にEPAを利用する場合ですが、EPAで介護福祉士候補者の受け入れで合意しているのは現時点ではインドネシア、フィリピン、ベトナムの3か国のみとなります。というのも以前の外国人受け入れの3つの制度の比較の記事でも解説した通り、本制度は経済交流の一環としての人材受け入れスキームであり、高度な技術・資格取得を候補者にも求めるものとなります。そのため、先に解説した外国人技能実習制度のように次々と対象国が広がるという性質のものではないことに注意が必要です。

なお20年近く給与水準が変わらない日本を前提で考えると忘れがちな視点ですが、対象国が現時点でどういった給与水準にあるのかというのは対象国を検討する際に考えておく必要があります。給与水準が一定のレベルを超えてしまうと、日本で働くメリットがなくなりそもそもの候補者が集まらないという事態が発生しかねないためです。特に、EPAでの受け入れを検討する場合には対象国が3か国と限られるため、それらの国々の経済状況が受け入れ検討時点でどのレベルにあるのかという調査は必須と言えます。

参考資料:アジア・オセアニア各国の賃金比較(2017年5月)(三菱UFJ銀行)

http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20170515.pdf

また、EPAでの受け入れを検討する際に覚えておきたいのが、これも以前の関連する国家資格の記事でも解説したように、本制度での国内残留要件となる日本の国家資格の合格率は2回あるチャンス合計で50%程度となっているのでこの点も考慮しておく必要があるでしょう。なお、合格率は50%程度ですが、受け入れ人数からの最終的な資格取得率は10%程度下回っています。それは途中帰国するなど試験を受験しないという層が一定数いるためです。

合格率    → 合格者数 ÷ 受験者数 = 約50%

資格取得率 → 合格者数 ÷ 入国者数(受験者数+未受験者数)= 約40%

このように、来日して勤務をしても必ずしもすべてが資格取得をすることではないことには注意が必要でしょう。

参考資料:
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000199604.html

「留学制度」で受け入れ可能な対象国について

最後に取り上げる留学制度、こちらには対象国という考えがありません。あくまで学ぶために来日するので、対象を限定せず幅広い国から受け入れることになっています。ただ実態としては、介護を学ぶ学生に限ってはアジアからの来日留学生がほとんどであり、中国、ベトナムなどがその多くを占めるようです。

留学生は「留学」の在留資格を取得して来日し、介護福祉士の国家資格取得を目指します。国家資格を取得することで、2016年の法改正で追加された在留資格「介護」に切り替えることが可能となります。この法改正によって、留学生を巡る状況が大きく変わってきているのは間違いないと思われますが、実情を把握するためには調査結果を待つしかありません。

いずれにせよ本制度を検討する際には、留学生はあくまで勉強し資格取得のために来日している、ということを念頭に置くべきでしょう。資格取得前はあくまで学生であり、資格を取得して初めて労働可能となります。そうした留学生の事情や立場をしっかりと理解し、その上でサポートをおこなうといった姿勢が求められるのです。

まとめ

外国人技能実習制度を中心に、外国人介護士を巡る状況はめまぐるしく変わりつつあり、あくまで本記事の記載内容は現時点(2018年8月)での状況をまとめたものに過ぎません。しかし、送出国を検討するにあたっては枠組みそれぞれごとのコンセプトの違いをしっかりと理解すること、そして送出国の候補となる国がどういった状況であるかということをしっかりと把握することの2つは常に変わらず重要なポイントと言えます。今後も外国人技能実習制度では送出国の候補が増えていくものと思われます。数値として明快となる「確保できる人材数」や、給与水準の目安となる「送出国の経済状況」だけでなく、文化や風土、宗教など多面的な視点で見ていくべきでしょう。



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